かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『わたしの心のなか』

 

 たとえば家族との会話でも、仕事のやりとりでも
ネットを通じての交流でも、本のレビューを書くという行為においてでさえ、
どんなに言葉を選んでも、どんなに言葉を重ねても
自分の想いを相手に伝えきることができないという現実の前に
途方に暮れることがある。

この物語の素晴らしさをあなたに伝えたいけれど
心の中に沸き上がってくる想いを
うまく言葉に出来ないもどかしさに唇をかむ。


わたしは話すことができない。歩くことができない。自分で食べることができないし、自分でおふろに入ることもできない。それが、すごくいや。


メロディは11歳。
脳性麻痺のため、腕も手も、筋肉が縮まったまま硬くて思いどおりに動かない。
テレビのリモコンはかろうじて押せるし、
車いすにノブがついていれば自分でこぐこともできるが、
スプーンやえんぴつは上手くにぎることができずに落としてしまうし、
きちんと座っていたくてもすぐにたおれてしまう。
彼女の言葉を借りれば“ハンプティ・ダンプティのほうが、
よっぽどしっかりしている”というのだ。

言葉が、わたしのまわりに舞い落ちてくる。
ひらひらひらひらと、まるで雪のように。
どのひとひらもこわれやすく、ちがう形をしていて、
手にふれる前に消えてしまいそう。


メロディの記憶力は抜群で、
その頭の中には、
11歳とは思えないほど、たくさんの言葉と知識がぎっしり詰まっているのだけれど、
話すことができない彼女は
自分の考えも、想いも、意思も周囲に伝えることができずにいた。

やがて彼女は、両親や理解のある人の助けで学校に通うようになり
電動車椅子によって以前より少しだけ自分で移動できるようになり
彼女の障害にあった特殊補助機器の助けをかりて
唯一自由に動かすことができる親指でボタンを押すことで
自分の想いを音声に変換することができるようになる。

それはメロディにとっても周囲にとっても画期的なことだった。
けれども、中には彼女の優れた能力をなかなか認めようとしない者もあったし
メロディの才能に気づきはしても
ありのままの彼女を受け入れてくれる人はとても少なかった。

機械の助けを借りて言葉を発することが出来るようになったメロディには
ようやく伝えることができた想いもあれば
発してはみたものの伝わらなかった想いもあったのだ。

原題は "Out of My Mind"。
金魚鉢から飛び出ていく金魚の絵をあしらった装丁は原書と同じものだという。

喜び、悲しみ、悔しさ、憤り、
メロディの心のなかを語りあげていくとても繊細な物語だ。

メロディの悔しさを思って
思わず唇をかまずにはいられないこともたびたび。
それでも読後感は決して悪くない。

背筋がピンと伸びる。
一つ一つの言葉を大切に紡いでいきたいと改めておもう。
わたしの心のなかに広がったメロディへの想い
この物語への想いが
1人でも多くの人に届くといいと思いながらレビューを書くものの
どれだけ言葉を重ねてみても語り尽くすことはできそうない。

伝えきれないもどかしさを感じながらも
それでもやはり、わたしはレビューを書く。
わたしの心のなかに広がったこの想いが
誰かの心に届くと良いなと思いながら。

           (2018.5.30 本が好き!投稿)