かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

2020年10月の読書

10月の読書メーター
読んだ本の数:14
読んだページ数:4136
ナイス数:506

彼女の名前は (単行本)彼女の名前は (単行本)感想
『82年生まれ、キム・ジヨン』の著者チョナムジュが、2017年の1年間に新聞や雑誌に書いた短いフィクションやエッセイに手を入れてた28篇を収録した短篇集。労働争議や大学総長選出をめぐる騒動など、時事問題が絡んでいる作品も多いが、詳しく知ろうと思えば丁寧な註釈もついているし、小さな文字は苦手だと註釈を読み飛ばしたとしても、十分に堪能できる作品でもある。「今」を切り取った韓国の話ではあるが、セクハラも「嫁」問題も、派遣労働も貧困も、日本でもあるあるの事案がいっぱいで、読んでいて胸が苦しくなるほどだった。
読了日:10月28日 著者:チョ ナムジュ
ほんやく日和 19ー20世紀女性作家作品集 vol.1ほんやく日和 19ー20世紀女性作家作品集 vol.1感想
関西圏で活動する翻訳者が集まって結成された『同人倶楽部 ほんやく日和』による同人誌で、この第1号は2019年11月に初版が発行されていたのだが購入しそびれ、第二刷をようやく手に入れた。ブックレットサイズの冊子なので、仕事鞄にしのばせるなど気軽に携帯できるのがいい。全部で8作品、短い作品ばかりなので、隙間時間に読むことも出来る。寝る前にちょっとだけ~のつもりで読み始めて、疲れて寝落ちしてしまったとしても、痛い思いをすることがないのもいい。但し、作品によっては、ゾクッと眠気が吹っ飛ぶものもあるので要注意!?
読了日:10月28日 著者:翻訳同人誌を作ろうの会
私のなかのチェーホフ (群像社ライブラリー)私のなかのチェーホフ (群像社ライブラリー)感想
チェーホフからもトルストイからもその力量を認められていた作家の短編と回想録にチェーホフからの手紙も収録。これを読んだ後チェーホフの『かもめ』を読むと、あの人の苦悩、この人の葛藤、あの人の諦め、この人の希望にも…と、あちこちにリジヤの影が見える気が。解説によるとこの回想録の真偽をめぐっては、関係者や研究者の間でも意見が分かれているらしいが、少なくても私は、チェーホフの作品を十二分に理解し読み解くだけでなく、自分の中にとりこんで作品にまで昇華してしまうリジヤ・アヴィーロワの才能に圧倒された。
読了日:10月26日 著者:リジヤ アヴィーロワ
ディディの傘 (となりの国のものがたり6)ディディの傘 (となりの国のものがたり6)感想
どうやら文学も「進化」するものらしい。わかったような気になってなにかを語りたくはないが、おそらく何も言う必要はないのだ。ただただ圧倒されたということ以外には。
読了日:10月23日 著者:ファン・ジョンウン
文学こそ最高の教養である (光文社新書)文学こそ最高の教養である (光文社新書)感想
なんといっても、この本の一番の読みどころは、訳者がなぜその作家のその作品を選んだのかというところ。編集部はまず、翻訳家に「なにを訳したいか」と聞く。翻訳家は、思い入れのある作品を、思い入れがあるからこそ先行訳にはいろいろと気になる点がある作品を訳してみたいと答える。読み応えのある「読書ガイド」に見られる熱さは、そういう作品を手がけているからこそのものなのだろう。
読了日:10月21日 著者:駒井稔,光文社古典新訳文庫編集部
夏物語 (文春e-book)夏物語 (文春e-book)感想
私はこの作品が好きで、それもかなり好きで、どこがどうとはっきりいうことが出来ずにもどかしいけれど、なんだかすごいと思っている。
読了日:10月19日 著者:川上 未映子
サラエボの鐘サラエボの鐘感想
アンドリッチの新刊が出ると聞いて久々に手にした本。やはり表題作「サラエボの鐘--1920年の手紙」が強烈だ。 あるいはそれは“後付け”の印象にすぎないのかもしれないが。 新刊、この本の収録作品とどれぐらいかぶっているのかも気になるところ。
読了日:10月18日 著者:イヴォ アンドリッチ
かもめ (集英社文庫)かもめ (集英社文庫)感想
リジヤ・アヴィーロワの『私のなかのチェーホフ』を読んでいたら、これは絶対再読しなければという気になって、本棚の奥から引っ張り出してきた。いやはやこれはまいった。以前読んだときと全く印象が変わってしまった。すごい『かもめ』すごいぞ。でもこれってチェーホフのというより、読者に『かもめ』を読み解いてみせたリジヤの才能なのかも!?
読了日:10月15日 著者:チェーホフ
第九の波 (韓国女性文学シリーズ8)第九の波 (韓国女性文学シリーズ8)感想
是非とも読みたいと思っていた本を,書評サイト本が好き!を通じていただいた。冒頭からひと癖もふた癖もありそうな人物が次々登場するゾクゾクするようなサスペンスであるだけでなく、炭鉱の町特有のじん肺問題や原発誘致をめぐるあれこれに、労働争議カルト教団の暗躍も加わって、間違いなく社会派の物語でもある。同時にとてもせつないラブストーリーでもあって…。とても読み応えのある、忘れがたい物語だった。
読了日:10月14日 著者:チェ・ウンミ
メイドの手帖 最低賃金でトイレを掃除し「書くこと」で自らを救ったシングルマザーの物語メイドの手帖 最低賃金でトイレを掃除し「書くこと」で自らを救ったシングルマザーの物語感想
あるいはこの瞬間にも誰かが運に見放されて、DV男から必死の思いで逃げ出して、進学するつもりだった大学を諦め、たったひとりで子どもを育てることになるといった、それまで思いも寄らなかった人生を歩み始めることを決断せざるをえなくなっているかもしれない。おそらく他者を思いやる気持ち以上に、私たちに必要なのは想像力だ。あるいはもしかすると、その不運は自分や自分の大切な人に降りかかってくるかもしれないのだと。そんなことを改めて考えさせられた本。
読了日:10月12日 著者:ステファニー・ランド
私人―ノーベル賞受賞講演私人―ノーベル賞受賞講演感想
再読。ヨシフ・ブロツキー(Ио́сиф Бро́дский)は、1987年にノーベル文学賞を受賞したロシアの詩人だ。1972年6月4日にソ連から国外追放され、1980年にはアメリカの市民権を得た。文庫より一回り大きいがハードカバーで、解説を入れても60ページちょっとのごくごく薄い本に 収録されているのは、そのものずばり、ノーベル賞受賞講演の内容だ。これがまあ全く以ておそれいる。繰り返し、繰り返し読むことを求まれられるほど濃厚で迫力があって、何度読んでも、そのたびに思わず息を呑んでしまうのだ。
読了日:10月09日 著者:ヨシフ ブロツキイ
キャラメル色のわたし (鈴木出版の児童文学 この地球を生きる子どもたち)キャラメル色のわたし (鈴木出版の児童文学 この地球を生きる子どもたち)感想
クレメンティソナチネ ハ長調 作品36 第1番の調べにのせて語りあげられる、アイデンティティに悩む10代前半の女の子イザベラの物語。両親の離婚、人種問題など、子どもであっても避けて通れない、社会の様々な問題に正面から向き合って、容赦なく描き出す。毎度のことながら“鈴木出版の児童文学 この地球を生きる子どもたち”シリーズは本当に質の高い良書揃い。子どもたちはもちろん、大人のあなたにもお勧めだ。
読了日:10月07日 著者:シャロン・M・ドレイパー
忘却についての一般論 (エクス・リブリス)忘却についての一般論 (エクス・リブリス)感想
一人の女性の物語のようでいて実は群像劇で、狭い空間の話のようで世界の歴史を語っていて、物語はいつも予測を裏切り、彼女は眠りながら眠っている夢を見る。それでもやはり目覚めるとそこには厳しい現実が。フェルナンド・ナモーラ文芸賞や国際ダブリン文学賞を受賞しているというこの作品は、稀代のストーリーテラーとして知られる現代アンゴラ作家による傑作長篇とのこと。評判を裏切らない読み応えでおそらくこの先何度も読み返すことになるだろう作品。同じ作者による“ボルヘスの生まれ変わりのヤモリが語り手”だという作品も是非読みたい。
読了日:10月05日 著者:ジョゼ・エドゥアルド・アグアルーザ
「世界文学」はつくられる: 1827-2020「世界文学」はつくられる: 1827-2020感想
“「世界文学」とはなにか”と題される序章からはじまる本書は、比較文学や翻訳研究が専門の著者による学術論文集。「世界文学」という呼び名でいったいなにが名指しされ、なにがどう読まれてきたのか。日本とソヴィエト、アメリカにおける「世界文学」のありかたを、主にその地域で発行された「世界文学全集」や「世界文学アンソロジー」のような叢書やアンソロジーをとりあげて、翻訳、出版、政治、教育などの観点から分析し、その理念やあり方の歴史的意味を探っていく。一見硬そうではあるけれど、中身はこれすこぶる面白かった。
読了日:10月01日 著者:秋草 俊一郎

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