かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『本当はごはんを作るのが好きなのに、しんどくなった人たちへ』

 

 レビューを書くとき、私は大抵、
キッチンの端に置いてあるデスクトップに向かっている。
そうしてそんなときは並行して
コンロに鍋をかけてなにかを煮ていたり、
オーブンでなにかを焼いていたりしていることが多い。

料理は嫌いではない。
どちらかというと「好き」な方だと思う。
でもたぶん、1年365日、日に3食のことを考えず、
好きなときに好きな物を作っていいのだとしたら
もっとずっと好きになっていたと思う。

たとえば、仕事でいっぱいいっぱいのとき、
「晩ご飯なに?」と訊かれてぶち切れそうになることがある。

ごはんの時間が遅くなると「まだ?」
品数が少ないと「これだけ?」と悪気ない顔で言われ、
時間をかけて作っても、品数を増やしても、
家族は無言で黙々と食べるだけ。
あっという間に食べ終えて
食後はソファーに座ってテレビやネットに熱中し始め……。

「作る人」にしろ「食べる人」にしろ
そんな場面に、心当たりがある人は多いのではなかろうか。


我が家の場合、
少人数だからまだなんとかやっていけているが
大所帯となる盆暮れともなれば、
朝ご飯の片付けを終えたらもう昼ご飯の準備で
ようやく片付け終わったらまた夕ご飯で
おさんどんで日が暮れる。


我ながらよくやっていると思うのに
気がつくと
「なんだか今日は茶色いご飯になっちゃった」
「一品料理でごめん。でも食材はいろいろ入っているから」などと、
誰にいうでもない言い訳を食卓に向かって呟いていたりすることもある。

そんな私が
タイトルにハートを射貫かれて手にしたこの本は
料理研究家コウケンテツさんのエッセイ集だ。

仕事として、家事として、趣味として、
長きにわたって料理と向き合ってきた著者が、
毎日「おうちごはん」を作っている人の気持ちを少しでも軽くしたい、
気持ちに寄り添いたい、作る人が元気になるような本を作りたい、
という気持ちから生まれた本だという。

そうしたコンセプトにしたがって
巻末には料理の「手間」を排除する実用レシピも収録されている。

主な読者層として想定されているのは
三人の子育て真っ最中という著者と同年代のママやパパで、
具体的なエピソードを交えながら、
「大丈夫、そんなに気に病まなくても、あなたは十分がんばっているよ」
「もっと肩の力を抜いて良いんだよ」と語りかけてくれるような本だ。

私は子育て世代ではないけれど

“料理に限らず、家事は「やっても褒められないけれど、
やらないと文句を言われる」理不尽な作業”だ。

“毎日のごはんを作るのは終わりなき戦いのようなもの”
“作っても、作っても、作らないといけない”

といった分析をはじめ、
そうそう、そうなの!そうなのよ!!と、
共感できる部分も多かった。

こういった本は、
ご飯を作る人だけでなく、
専ら食べる役まわりの家族を含めて、
みんなで回し読みするのがいいと思うが、
なかなかそううまくもいかないだろう。

そんな時にはぜひ、この本を
読みかけてつい置き忘れた風を装い
タイトルが見えように
家族の目につく場所に置いてみて欲しい。
もしかすると今夜は
家族の誰かが、
嬉しい言葉のひとつふたつかけてくれるかも。
あるいは夕飯の後片付けをかって出てくれるかもしれない。