かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『「グレート・ギャツビー」を追え』

 

「グレート・ギャツビー」を追え (単行本)

「グレート・ギャツビー」を追え (単行本)

 

 久々にグリシャム作品を読んだ。
指折り数えてみたらなんと、ひと昔を軽く飛び越えて、ふた昔ぶりぐらいだ。
グリシャムといえば、リーガル・サスペンス
ひところは随分はまって、新刊が出るたびに飛びついていた。
あの頃はまだ日本には「裁判員制度」がなくて、グリシャムを読んでアメリカの司法制度の仕組みをしれば、参考になるかも…なんてことが、巷でも結構真面目に話されていたっけ。

何作か読むうちに少々飽きがきて、同じ頃、作家の作風も社会派というよりエンタメ重視にシフトしてきたようにも思われて、次第に遠ざかってしまったのだが、「今度の作品には法曹関係者はほとんど出てこないかわりに、アメリカの書店や出版界の事情がたっぷり出てくる」と聞いて、手を伸ばしてみることに。

ちなみに翻訳を担当したのが村上春樹氏だという点は、私の場合、セールスポイントにはならない。

それはさておき、本作の内容はというと……

ブリンストン大学図書館の厳重な警備を破り、フィッツジェラルドの直筆原稿が強奪された。
消えた長編小説5作にかけられている保険金総額は2500万ドル。
原稿の行方を追う保険会社が目をつけたのは、フロリダで独立系書店「ベイ・ブックス」を営む名物店主ブルース・ケーブル。

ユニークな経営方針で精力的に書店を切り盛りするこの男は、希覯本収集家というもう一つの顔を持っているのだ。
原稿の行方を探るべく、探索チームが送り込んだのは、才能があるにもかかわらず、創作にも金策にも行き詰まった小説家のマーサー・マン。
女性作家との“交流”にも積極的なブルースにマーサーを近づけて、あれこれ探らせようというのだった。

ミステリーとして読むと今ひとつだが、そこはグリシャム、稀覯本収集や米国の書店経営事情、売れっ子作家の作り方等々、本好きには堪らない要素をたっぷり盛って、テンポ良く一気に読ませる。

とりわけ、純文学では売れずに、生活費の為に読者に受ける要素を研究し、徹底的に盛り込んだロマンス小説でベストセラー作家の地位を築いたベテラン作家が、マーサーにあれこれ助言するシーンは興味深い。

「それで結局どっちが書きたいわけ?文芸作品なの、それともポピュラー・フィクションなの?」

売れる文芸作品を書ける作家はほんの一握り。
結局のところ、自分の信じる文芸作品を追求するのか、売れる作品を書くのか、選ばなければならないというのだ。

この思い切った問いかけは、そのまま読者にぶつけられる。

あなたは、この作品を、どっちだと思っているんだ?と。


原題は「Camino Island」
これを訳者の翻訳本にかけてこの邦題にするあたり、少なくても訳者と出版社は、盛ってでも売るぞという姿勢をみせている。
そういう姿勢は悪くない。
結局のところ、どんなに面白い作品であったとしても、読者に手に取って貰わなければ、その面白さは伝わらないのだから。
そうして、読者である私はまんまとのせられ、既に刊行が決まっているという続編もきっと読んでしまうのだ。
グリシャムが「両方」を兼ね備えている特異な作家であるかどうかはさておき、少なくても売れる作品を書くツボを押さえていることは間違いない。