かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『人之彼岸』

 

 中国の作家郝景芳(ハオ・ジンファン)の第二短篇集(原書刊行2017年)の全訳。
AIをめぐるエッセイ2篇と、短篇6篇が収録されている。

本書のプロローグとして、皆さんが気にかけているいくつかの問題について論じてみたいと思う。
こんな書き出しで始まる巻頭エッセイ「スーパー人工知能まであとどのくらい」と、それにつづくもう一本のエッセイ「人工知能の時代にいかに学ぶか」で、作家は読者に対し、自分の問題意識をかみ砕いて説明しようと試みる。

AI開発をめぐる到達点と将来像をアルファ碁を例に説明し、これからの時代にどういう教育が必要かを語るその語り口は、専門的な論文を簡潔に分かりやすく解説してくれようとしていることがよくわかりはするが、かなり難しい内容で文字を追うだけで精一杯だ。

(これ、本当に最後まで読み切れるかしら…)と心配になりながらも、エッセイを斜め読みして続く小説へと進んでいくと、エッセイの反動か、こちらはこんなにわかりやすくていいのか、というぐらい、わかりやすくつるつると読める。

そうして、なるほど作家がAIについて懸念していたあれこれは、こういうことだったのか。ふむ。確かにそういうことはあるかもしれない。などと思ったりもする。

正直なところ私自身は、元々AIものはもちろんSF自体にも疎いので、収録作品が目新しいとか、○×に似ているとかいった評価は下せないが、いずれもAIをテーマにしていながらも、人情味溢れる作品群で読みやすかった。

収録作品の中でいちばんのお気に入りは、どんな病人でも嘘のように回復させてしまうという病院の謎に迫る「不死医院」。
人工知能業界のエジソンといわれる人物に意識不明の重症を負わせた事件の真相にせまる「愛の問題」も面白い。