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かもめのつぶやきメモ

『引き出しの中の家』

 

([く]3-1)引き出しの中の家 (ポプラ文庫 日本文学)

([く]3-1)引き出しの中の家 (ポプラ文庫 日本文学)

  • 作者:朽木 祥
  • 発売日: 2013/06/05
  • メディア: 文庫
 

小さい頃から容姿についてはあれこれとコンプレックスを持っていた私だが、
もしも誰かに「自分の身体の中で1番好きなところは?」と問われたならば、
迷わず「手」と答えただろう。


「綺麗な手だねえ。」
私の手をいつも自分の手のひらに載せて
もう片方の手で静かに撫でながら祖母はよくそう言ってくれたものだった。


やがて歳をとって、私の名前をすぐには思い出せなくなってしまっても
孫だということすらはっきりとわからなくなってしまってからも
手を差し出せばいつも、
「綺麗な手だねえ。」そう言って優しく包み込んでくれたものだった。


それぐらい私の手は、祖母のお気に入りではあったけれど、
編み物も刺しゅうも七宝焼きも
なんでも器用にこなした祖母の手とは正反対にひどく不器用だったから
おばあちゃんに褒められるたびに嬉しい反面、
この手がもう少し思うように動いてくれたならといつも思っていたものだった。


そんなことを思い出しながら読んだのがこの本。


姿形は人間にそっくりだが
大きなものでも大人の人差し指ぐらいの背丈で
幼いうちは嬉しいと花の香りを発し、成長すると自らの内から光輝く。
その姿を見ることが出来るのは
樹木を丁寧に手入れする者
草花を大切にする者
そしてひと握りの小さな子どもたちだという。
そんな“花明かり”と人間の少女たちの友情を描いた物語が面白くないはずはない。


母親譲りの器用さで、ミニチュアの家を整えて、花明かりとの交流を試みる七重。
不器用な自分に悩みながらも、持ち前の明るさと行動力で、
花明かりとも正面から向き合う薫。


寂しさも心細さも、喜びも楽しみも、やさしさも思いやりも、
可愛いものも、美しいものも、美味しいものも……
素敵なもの、好きなものがたくさん詰まった物語の中に、
読み手、それぞれが自分を見いだし、
読み終えた後いつまでも去らない余韻にひたる。


切なさや懐かしさだけでなく、読後、心に小さな灯りがともる。
そんな物語だった。

            (2013年11月14日 本が好き!投稿)