かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『もう過去はいらない』

 

もう過去はいらない (創元推理文庫)
 

 バック・ジャッツ88歳。
それでなくてもガタがきていた身体に
前作 『もう年はとれない』でおったダメージが響いて
一時期は寝たきりに。
長年連れ添ってきた妻ローズの介助だけでは
どうにも暮らしてゆけないので
住み慣れた我が家を売って
夫婦そろって介護施設に入所した。

とはいえ、彼のことだ。
周りと上手くやっていこうなどという気はつゆほどもないので
気に入らないことがあれば
利かない身体にもかかわらず、
実力行使も辞さないので相変わらずのトラブル続き。

妻はもちろん施設職員にとっても悩みの種だ。

それでもジャッツ
毎度毎度悪態をつきながらもなんとかこなしてきたリハビリのおかげで
最近ようやく歩行器を使って一人で移動することが可能になった。

そんなとき、彼を訪ねてきたのは御年78歳の稀代の大泥棒イライジャ?!
なんと命を狙われ大ピンチに陥った彼はジャッツに助けを求めに来たという。
昔々、今度会ったら生かしてはおかないと捨て台詞を吐いて
別れた仲だというにもかかわらず?!

物語は手に汗握る逃走劇が繰り広げられる“現代”と
二人の因縁の“過去”が平行して語られていくのだが、
読み進めるうちに
老いに追いつかれまいと必死に闘うジャッツを応援したい気持ちと
どうやら理想主義者だったらしいジャッツの年若い息子が感じたように
無茶で無謀で決して理性的とは言えないジャッツへの嫌悪感にも似た気持ちとが
同時に押し寄せてくる。

世の中に正義はないのか。
人は何に、どうやって、折り合いを付けて生きていけばいいのか。

思わずあれこれ考え込みそうになりかけるそばから、
重傷者や死人が出る血なまぐさいシーンが飛び出したかと思うと
やれ歩行器がたためないとか
抗凝血剤のせいで出血が止らないとか
“高齢者あるある”のドキドキがこちらも同時に押し寄せてきて
まったくもって心臓に悪いことこの上ない。

それでもページをめくる手が止められず
読みおえたばかりだというのに
既に刊行が決まっているという次作も、次々作もきっと必ず読むだろうと思っている。

               (2015年09月09日 本が好き!投稿