今でこそ、すっかり有名人になってしまったバック・ジャッツだが、しばらく前まで“知る人ぞ知る”存在だった。
そして知っている人とといえば、家族とユダヤ人コミュニティの面々、警察の連中と、ある一定の年齢層だけ……しかもこの一定の年齢層……つまりジャッツがバリバリの刑事だった現役時代を知る年齢層は、毎日確実に減っていた。
何しろ、彼が現役を退いてから三十数年の時が経っているのだから。
そして彼を再び有名にしたのがこの物語。
とっくに死んだと思われていたナチスの元将校と、その男が持って逃げたというお宝をめぐる血なまぐさい事件だった。
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ナチスの財宝が絡んだミステリ小説は、決して珍しいものではないが、このハードボイルド・ミステリの最大の特徴は、なんと言っても主人公が87才と高齢なこと。
主人公が肌身離さず持っているのは、現役の敏腕刑事だったころからの相棒357マグナムと痛烈な皮肉、そして忘れたくないことを書き留めておくための“記憶帳”だ。
ちなみにこの“記憶帳”の1ページ目に書かれているのは妄想は老人性認知症の初期症状だ
という主治医の言葉。
「あいつが怪しい」「つけられている」…そう思うのは、元刑事のカンかそれとも“初期症状”なのか?!
事件の真相を追いながらも、老いに追いつかれないように必死にもがくジャッツの姿がとても切ない。
作者が祖父をモデルに生み出したというこの主人公。
口は悪いがパンチは弱く、ちょっとしたことで内出血だらけになってしまうご老体ではあるが、シニア萌えの私でなくても、その魅力にノックアウトされる読者は少なくないはずだ。
(2014年09月21日 本が好き!投稿)