かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『いつも手遅れ』

 

いとしいきみへ、
親愛なる友へ、
愛するきみへ、
ぼくのかわいい、苦しむ人へ、
そんな書き出しで始まる18篇の手紙


思い出を語って郷愁に浸り
思いの丈を綴って変わらぬ愛を誓い
あったかもしれない人生に思いをはせて後悔を綴り、
そうだったに違いないと決めつけて恨みごとを言ってみる。


手紙という一方通行の形式で語られる物語は
決してすべてを語り尽くしはしない
読み手はただその文面から
あれこれと想像を巡らせるだけで
読み終えたところでなにひとつ明らかにならない。


たとえばもしもあの時に……
誰でも一度や二度は、そんな思いにとらわれたことがあるだろう。
なにが正しくて、誰にとってなにが良いことだったのか。
その答えは、誰にもわからない。


すべての人の気持ちを理解し、
すべての出来事を把握することなど
所詮誰にもできはしないのだと
今更ながらに気づくのだ。


手紙だからこそ
語ることが出来る本音と
手紙だからこそ
大胆に赤裸々に綴れる思い
時には書き手に寄り添い
時には読み手の気持ちになって
声に出して読んでみる。


タブッキらしい美しく切ない調べと
タブッキらしからぬ大胆で率直な物言い。
愛を語っているのだとばかり思っていた手紙が
いつの間にか人生そのものを語り始めるとき
タブッキの世界に浸っている自分を
端で眺めているもう一人の自分に気づく。


それはまるで、
前夜、筆に任せて書き連ねた手紙を
翌朝、少し冷めた目で読み返す時のように
どこか気恥ずかしく、なぜか後ろめたい。
けれども、結局出さないであろうそうした手紙を書く自分が
まんざら嫌いなわけでもないのだ。
そう、いつだって。

            (2013年10月22日 本が好き!投稿