かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『中国史SF短篇集-移動迷宮 』

 

ケン・リュウが編んだアンソロジーに加え、劉慈欣郝景芳の作品集と、もしや中国SFとは非常に相性が良いのでは?と思い始めた今日この頃。
国史には明るいとはいえず、タイムトラベル物はに苦手な作品も多いので、少々躊躇う気持ちはあったものの、ものは試しと読んでみた。

収録されているのは7人の作家による8篇の短篇。

巻頭作「孔子、泰山に登る」は、私には少々難しかった。
孔子と泰山といえば、苛政は虎よりも猛しという故事を思い浮かべるが、あれは確か孔子は泰山の側を通り過ぎただけだったような……、首をかしげているうちに読み終えてしまい、巻末の作品解説を読まないとお手上げだったので、こんな調子では最後まで、読み通せないかも…と若干不安に。

それでもここで、くじけては!と意を決してページをめくると、2作目はかの諸葛亮孔明がコーヒーの栽培に成功した!という話(「南方に嘉蘇あり」)で、それなりに面白かった。
もっとも、解説にあるような「中国史パロディで埋め尽くされている」作品だとは全く気づかなかったし、それどころか、偽史とも気づかずうっかり信じてしまいそうだった。

こんなことで大丈夫なのか私!?と、ますます不安になりつつもさらに先に進むと、思いがけず幻想的な世界が広がっていて、幽霊つかいの弟子である少女が世界の「真実」を目の当たりにする「陥落の前に」にすっかり惚れ込む。

さらに進むと今度は迷路が。さすが表題作「移動迷宮」のこの面白さも格別だ。

清末のある小説に惹かれた主人公がその作者広寒生について調べていく「広寒生のあるいは短き一生」、魯迅とウェルズを融合させたと紹介される「時の祝福」、日中戦争下の上海を舞台にした「一九三八年上海の記憶」も読み応えがあったが、大トリをつとめる「永夏の夢」のロマンティックなタイムトラベルには、さすが中国、比翼の鳥だよ!連理の枝だよ!!と酔いしれずにはいられなかった!!


【収録作品】(特に気に入った作品には●をつけた)
孔子、泰山に登る(飛氘 著/上原かおり 訳)
・南方に嘉蘇あり(馬伯庸 著/大恵和実 訳)
●陥落の前に(程婧波 著/林 久之 訳)
●移動迷宮 The Maze Runner(飛氘 著/上原かおり 訳)
・広寒生のあるいは短き一生(梁清散 著/大恵和実 訳)
・時の祝福(宝樹 著/大久保洋子 訳)
・一九三八年上海の記憶(韓松 著/林 久之 訳)
●永夏の夢(夏笳 著/立原透耶 訳)