かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『そこに私が行ってもいいですか?』

 

タイトルと優しい色合いの表紙に惹かれて手にした本。
韓国YA文学を牽引する作家によって書かれ、IBBY(国際児童図書評議会)のオナーリストに選定された作品だと聞いていたから、読み応えがありそうだとは思ってはいたが、いざ手に取ってみるとその厚さと重さに驚いた。


自分が制作に携わったドキュメンタリー番組を観たという高齢の女性から、連絡を受けた「私」は、女性の住む老人ホームを訪れる。
その女性は、TVに映っていた人ではなく、自分こそが「子爵の娘」だと言うのだった。
こんなプロローグから始まる物語は、初っぱなから歴史を盛り込んだ、漢字いっぱいのなかなかにいかめしい滑り出しで、この調子で最後まで読み通せるかしら?と読者をたじろかせるには十分だった。

ところが、ところがなのである。

本篇に入るとこれがまさに波瀾万丈の物語!
先が気になって仕方が無くぐいぐい読み進めるものの、途中で息を整える必要もあったりで、気がつけば、撮りためておいた連続テレビ小説を1か月分まとめ見してはひと休みし、また気合いを入れて続きを見る…そんなことをしている気分になっていた。


>まずは愛らしい子役たちが活躍する幼年時代
日本の植民地時代に、朝鮮総督府から貴族の爵位を受けたユン家の娘チェリョンは、子爵で実業家でもある父に溺愛されて育つ。
8歳の誕生日に父からもらったプレゼントは、レースの白襟があしらわれた紺色のワンピースと、一つ年下の貧乏人の家の娘スナムだった。
スナムは家の雑用をこなし、チェリョンの気が向けばその遊び相手をした。学校に通うチェリョンの傍らで向学心を抱き、つらい仕事の合間に韓国語の読み書きだけでなく、日本語もと貪欲に学んでいくのだった。


>続いては美しい娘たちが共演する青春時代篇
チェリョンが日本の京都の女子大に留学することが決まったとき、スナムはお嬢様の身の回りの世話をするために、一緒に日本に渡った。
異国の地で寄り添って暮らすうちに二人はその結びきを更に強めるが、チェリョンが抗日運動に関わる男子学生と恋仲になり、活動に資金提供していたという嫌疑をかけられたことで、その平穏で幸せな日々に終止符が打たれる。


>いよいよここからが、ダブルヒロインの実力が問われる試練篇
子爵は、家名を守り、愛娘の刑務所行きを阻止するために、スナムをチェリョンとして皇軍慰問隊に送り込み、チェリョンには日本の戸籍を買いあたえた上で、自分の下で働いていた日本人と結婚させて渡米させるのだった。

反日闘争、対日協力者、従軍慰安婦日系人収容所……避けて通れない時代のあれこれと、恋愛や結婚、人種差別も人の温かさも、向学心も経営手腕もといった、いつの時代にもある普遍的なあれこれとが混ざり合って、絡み合った運命の糸。
韓国と日本だけでなく、ロシア、アメリカ、中国と、世界をめぐる波瀾万丈。

いやーこれは参った。
朝鮮近代史を盛り込みながら(それじゃあ、あのプロローグの女性はどっちなのーっ!!)と、最後までぐいぐい読ませるぐいぐい読ませるエンタメ度も十二分。


たとえ結末がわかっていても、ドラマ化されたらこれは観たいわ。