かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『歩くこと、または飼いならされずに詩的な人生を生きる術』

 

徒歩で一人旅した時程。完全に存在し、徹底的に生き、ありのままの自分でいられたことはなかった。と言ったのはルソーで

魂とは、大道を歩む旅行者だと言ったのは、D・H・ロレンス

歩きたいという欲求だけは失うな。私は毎日、歩くことで、健康になっていき、あらゆる病が縁遠くなっていった。歩くことで私は、最良の思考に行き着いた。と言ったのはキルケゴール

歩くことと作家として生きることを軸に、先人たちの足跡を追う文学論的な側面を持つこの本の文章は、時に紀行文のようでもあり、自伝的小説のようでもあり、エッセイ集であって、ところどころとても私的な日記のようでもあるという不思議な形で、作家はまさに文学という広大な大地を縦横無尽に歩き回っているかのよう。

けれども「歩く」という言葉から私が連想するような、健康的な側面はあまりなく、美しい風景を目にしても、旅先で出会った誰かと肌を重ねようとしても、飲んだくれても、美味しいものを食べていても、なんだか妙に落ち着かない。


作家は歩く。
てくてく歩く。
ノルウェーからトルコまで、時には無茶してずんずん歩く。

私はちょっと歩き疲れて、遠まきに、歩いている作家を眺めている。

その気力がうらやましいような、その焦りや憤りがどこか懐かしいような気もするが、なによりこの先、作家がどこに向かいどこにたどり着くのかが気になって、思わず目をこらす。