かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『夜がうたた寝してる間に』

 

四角い窓に、夜を眠らせて閉じ込めた。
こんな書き出しで始まる物語の主人公は、高校二年生の冴木旭。
“時間を停止させることができる”という特殊能力を持っているが、ごくごく普通の高校生活を送ろうと日々全力で努力している。

といっても、その能力を周囲にひた隠しにしている……というわけではない。
物語の舞台は、1万人に1人の割合で特殊能力者がいる社会。
瞬間移動できるとか、人の心を読むことが出来るとか、人によってその能力は様々だが、能力者はすべからく金色のバッジをつけなければならないとか、定期的に専門家によるカウンセリングを受けなければならないなど、様々な制約を課せられてもいる。

旭の通う高校は、数年前にそうした特殊能力者を受け入れる方針を打ち出したばかりで、お世辞にも良い環境が整っているとは言いがたいようだが、それでも旭の学年には旭を含めて3人の特殊能力者が在籍している。

自分は特別な能力など持っていないようなふりをして周囲に溶け込もうとする旭と違って、篠宮は他人に請われて能力を使うことで皆になじもうとしているし、我妻は周囲から徹底的に孤立している。

そんな彼らが通う学校である事件が起き、特殊能力者である彼らに疑いの目が向けられることに。

旭は平凡な日常を取り戻すために、自ら真犯人を突き止めようとするのだが……。


体裁としては学園ミステリと言えなくもないが、ミステリとして読むには、犯人の見当が早々につきすぎる。
おそらくは作者の意図もそこにあるのではなく、否が応でも自分と友人そして家族と向き合わざるをえない青春まっただ中の高校生の葛藤を描くことに力点を置いているのだろう。
そしてその意味では、大いに成功を収めている。

 息を止めた暗闇が、絵画のように張り付いている。深夜の住宅街の明かりは部屋によって灯ったり灯らなかったりで、あとは辺りを照らしているのは街灯と一台の車だけだった。その車も道路の真ん中でじっとりと動きを失っている。ヘッドライトの中に、いくつもの雨粒が見える。



作者はきっとロマンチストだ。
そしてその繊細な表現は青春小説によく似合う。