正直、怖い話は苦手だが、
箱から出すと紫をバックに金色の兎が浮かび上がるこの美しい装丁の前を
素通りすることができなかった。
“スパニッシュ・ホラー”の短編集だと聞いていたので
短い話なら、怖さもさほど後を引かないだろうと思ったのも事実だ。
だがしかし……。
これはなんと言えばいいのか。
“怖い”というよりも
“不気味”とか“不穏”とかいう言葉の方が
ぴったりくる気もする物語たちは、
予想に反して、めちゃくちゃ後を引く。
小さな島で繁殖しやがて共食いを始める兎、
小山羊ではなさそうな奇妙な肉、
真夜中に教会の丸屋根を歩く男、
他人の夢を見る女、
病死した母からきたフェイスブックの友だち申請
旅先で腫れ上がった彼の歯茎がまるで……
うわー、それで?それから?どうなるのー!?と、
叫んで、頭をかきむしろうとも、答えはどこにも書いていなくて、
耳から生えだしたという肢の、
生え際はいったいどんな風になっているのかなどと
妙なことが気になり出してなかなか寝付けない。
ああこれは、確かに“怖い”。
これは“恐ろしい”とは別の怖さではないかという気も。
この怖さはおそらく、理解できないことがもたらす怖さ。
足元がぐらつき、慌てて伸ばした手がつかんだものもまた不安定にゆれて
信じていたものすべてが、消えてしまいそうな不安。
そのくせ、読んでいると、物語がもたらす不安にとらわれて、
少しの間、現実に目の前にある不安から目をそらすことができる。
そんなちょっとやみつきになりそうなヤバい怖さがある。