かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『わたしの心のきらめき』

 

わたしの脳は、数字や地図、できごとや計算を正確に記憶する。それに雑学ならだれにも負けない。たとえば、アラスカやアルゼンチン、アルメニアの夏の平均気温。ファーストフード店で使われる脂に入っている秘密の材料とか(知りたくないだろうけれど)、オンラインゲームで最終ステージにスキップするための近道とか。ほとんどの雑学は頭のなかにつまっているだけで、何をするでもなくただよっている。山ほど知っていることがあるけど、たいてい谷に閉じこめられている。わたしの脳はなんでもできるのに、どうして体に動けって伝えられないんだろう。



もうすぐティーンのメロディは、脳性麻痺のために体の動きに制限がある。
話すこともままならないし、移動には車椅子が欠かせない彼女だが、自分ができることに気持ちを向ける方が好きだと前向きであろうと努めている。

そんな彼女は、前作『わたしの心のなか』でかっこよく登場した、メディ・トーカーという携帯できる会話補助装置に「エルヴァイラ」と名前をつけて愛用している。

「エルヴァイラ」さえあれば、人と話をするとき、頭に浮かんだことをタイプして話すことができるし、読書感想文を書いたり、インターネットで調べ物をすることも可能だ。
もちろん、“運良く親指が協力して動いてくれれば”という条件付きではあるけれど。


本作は前作から1年後、メロディの夏休みを舞台にした物語だ。

彼女は一大決心をして、自ら資料を集め、両親を説得して、サマーキャンプに参加することに。

“グリーン・グレイド・キャンプ”は、いわゆる「特別な配慮」が必要な、いろんな子どもたちのためのキャンプだ。

このキャンプに参加すれば、水泳、乗馬、ダンスに、キャンプファイヤー等々、様々な体験が出来るというのだけれど……。

親元を離れての外泊をはじめ、びっくりやどっきりがぎっしり詰まった沢山の“はじめて”。

メロディの一週間が丁寧に綴られた物語は、前作のファンはもちろん、多くの読者に力一杯お勧めしたい一冊だ。


一気に読むのがもったいなくて、一日一日を丁寧に追いかけ、読みながら、あれこれと思い巡らしていると、胸がぎゅっと締め付けられたような気持ちになったり、思わず涙をこぼしそうになったりしてしまう。

けれども途中で(ああ私、メロディには幸せになって欲しいの!)などと思っている自分に気づいて、いやまてよ。と思う。
だってそうでしょ?
幸せになって欲しいなんて、私ったらなんて傲慢なの!

私はやっぱりメロディになったつもりにはなりきれないし、彼女の気持ちが手に取るようにわかるわけでも、すべてにおいて共感できるわけでもない。

時には彼女の考え方に驚いたり、自分の中にある思い込みに気づいて戸惑ったりもするけれど、メロディの隣に座って、彼女が打ち込み「エルヴァイラ」が吐き出す言葉に、じっくりゆっくり耳を傾けることならできるはず。

だからぜひまた、メロディのその後の物語も聞かせて欲しいな、と思うのだった。