かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『夏のサンタクロース』

 

むかし、ひとりの男がいて、息子が三人ありました。息子たちは大きくなると、お父さんに向かって、こういいました。
 「のくたちに、つえを一本と、お弁当を入れた背負いかごどひとつずつください。世の中へ出ていって、運だめしをしたいんです」


こんな風にはじまるのは巻頭作「お話のかご」。
三人の若者は、たがいにさようならをいいあって、それぞれ選んだ道を歩き出す。

古今東西、三人兄弟姉妹が出てくるお話は山ほどあるけれど、ごく希に苦労を背負ってきたであろう一番上が報われることがあるものの、たいていの場合、幸運に恵まれるのは末っ子と決まっている。
三人姉妹の真ん中として育った私は、ああまたか…と思いつつ読み進めるも、ちょっぴり意外な結末になんだか心が温まる気が。


哀しかったり、切なかったりするお話もあるけれど、昔話にありがちな残酷さはなりをひそめ、どの物語も後味は悪くなく、就寝前に一つずつ…と読み進めても安心して眠りにつける心地よさがあった。


訳者あとがきによれば、作者のアンニ・スヴァン(1875-1958)は、フィンランドの「童話の女王」と呼ばれる作家だとのこと。
支配階級の多くが使ったスウェーデン語ではなく、民衆の言葉であるフィンランド語を用いて、フィンランドに伝わる民話や伝説をモチーフにしつつ、独自の世界を築いた作家だそうだ。

本書はそんな作家の童話を集めた作品集の中から、訳者が日本の読者にぜひとも読んでほしいと思った作品十三篇を選んで一冊にまとめたものだという。

原書にも使われているというとルドルフ・コイヴの挿絵がまたすばらしく、思わず何度も見返してしまう。


十三篇のうち、とりわけ私のお気に入りは、「波のひみつ」「春をむかえにいった三人の子どもたち」「氷の花」。
選んでからもう一度読み返してみて思うに、このセレクトには、ちょうど今、私が暮らす北国が、根雪が溶け始め、オオハクチョウが飛来して、ひときわ春が待ち遠しい季節だということが影響しているかもしれない。

夏に読み返したらまた違った作品に心惹かれるかも、そんな期待をしつつ、ひとまず本を閉じた。