かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『原州通信』

 

 先日、東京に行った際、
旅の記念に田舎ではなかなか入手することが出来ない本を買おうと思い立って
大型書店をのぞいてみた。

前々から気になっていた出版社クオンの本に照準を合わせ
あれこれ手にしながら、どれにしようかと迷う。
色とりどりならんでいた
「韓国文学ショートショート きむふなセレクション」は
薄くて軽いコンパクトサイズ、
旅先で購入するにも手頃であるように思われたが
日本語と韓国語が同時収録されているというから
半分は全く読めそうにない。

出版社がYouTubeで韓国語朗読音声も配信しているので
韓国語の学習教材としての需要も見込んでのことだと思うが、
ハングルの入門書をぺらぺらとめくったことがある程度の私には
歯が立つはずもない。

でもまあ、読み終わったら
長年韓国語を学んでいる姉に譲ってもいいし、
とりあえず試しだからと、一番薄い本を手に取ったら、
はじめての海外文学vol.5でも推薦されているこの本だった。

ちなみにタイトルの『原州通信』は「ウォンジュツウシン」と読むのだそうだ。

  

冒頭、主人公兼語り手の「ぼく」は少年時代を回想する。
家の近くに有名な作家朴景利が引っ越してきた。
といっても、ぼくはもちろん近所のおとなたちも
最初からその作家に注目していたわけではなかった。
やがてテレビドラマの大ヒットで
一躍国民的作家として注目をあびた作家先生との関係を
ただ単に近所に住んでいるだけの「ぼく」は
大げさに言いふらして悦に入っていた。
それから何年もたって
まさかあの時の嘘がきっかけで妙なことになるとは
思いも寄らずに。


どことなくユーモラスで
知らない町の見ず知らずの人たちの話なのに切ない郷愁がだだよい
どうしようもなくダメダメな「ぼく」が憎めない。
おまけにはっきりそれと断ることなく
作家の抱く文学論とか作家論がところどころに顔を覗かせる。

異論はあるかもしれないが、
そんなところが
私が愛して止まない太宰を思い出させもする。

ああこれ、ものすごく好きだなあ。
何度も繰り返し読みたい。
ずっと手元に置いておきたい本だ。

                   (2019.11.18 本が好き!投稿)