かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

ぼくだけのぶちまけ日記

 

ぼくだけのぶちまけ日記 (STAMP BOOKS)

ぼくだけのぶちまけ日記 (STAMP BOOKS)

 

 原題は“The Reluctant Journal of Henry K. Larsen”
カナダのYA作家スーザン・ニールセンさんの2012年の作品で、翻訳を担当したのはやまねこ翻訳クラブの長友恵子さんだ。
はじめての海外文学vol.6児童書部門のエントリー作品でもる。

主人公である13歳の少年ヘンリーが書いた日記、というスタイルの青春小説なのだが、作者がコロンバイン高校銃乱射事件に着想を得て書いたというだけあって、テーマは決して軽くない。

セラピーの一環として勧められたヘンリーがいやいやながら書き始めた日記には、突然の事件で兄ジェシーを失い、崩壊寸前の家族の中で悲しみと憤りを抱えた彼の苦しい心の内がつづられていく。

いじめ、犯罪加害者家族、自死遺族が直面する問題……と、悲しみや苦しみややるせなさがいっぱい書かれていて、涙なしには読めない場面もあるが、それでも邦題タイトルにあるようなヘンリー少年のぶちまけ感がいい味を出していて、ユーモラスな場面に思わずにやりとしたり、わくわくさせられたりもする。

最初はうっとうしいばかりだと思っていた学友やセラピストやご近所の人たちの存在に、救われ支えられて強くなっていくヘンリー少年の姿を前に、「そうだよ。ヘンリー、君は笑っていいんだよ。もちろん楽しんでいいんだよ。」と思わず応援したくもなる。

同時に読みながら何度も思い浮かべたのはあなたたちの中で罪を犯したことのない者が、まず、この女に石を投げなさい。というヨハネ福音書の1節。
報道をうけて、犯罪加害者や被疑者だけでなく、その家族に対してまでも、自分にも鉄槌を下す権利があるといわんばかりの言動や行動をとる人たちが増えている気がする今の世の中に一石を投じているようにも感じられた。

忘れるなんてできない。でも抱えて生きていく方法を学ぶことはできる。
意外な人物の意外な言葉に打ちのめされると同時に励まされたヘンリーと共に、彼の周りの人びとも、そして読者もまた、前を向いて歩き出す。

中国人、スリランカ人といったアジア系の登場人物の描写がやや類型的な点が少し気になりはしたが、若い世代の読者だけに読ませておくにはもったいない、読み応えのある作品だった。