かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『サンソン回想録:フランス革命を生きた死刑執行人の物語』

 

 

 パリの死刑執行人を代々務めたサンソン家の
4代目当主シャルル‐アンリ・サンソン。
ルイ16世やマリー・アントワネットロベスピエール等々、
その手にかけた数は3000人余ともいわれ
一族の中でもひときわ有名な<ムッシュー・ド・パリ>。


その彼のことを、サンソン家に代々伝わる資料や自ら手がけた取材を基に、
バルザックが描いたのが本作。
これまで日本で刊行されてきバルザック全集などにも収録されていない
本邦初翻訳作品だという。

本作がなぜこれまで日本に紹介されてこなかったかという点については
「はじめに」と題された訳者によるまえがきに詳しい。

訳ありのため、
起承転結1冊丸ごとすっきりきれいにまとまっているとは言いがたいが、
パリのサンソン家だけでなく、
フランスの他の地域の、あるいは他の国の死刑執行人たちのエピソードもあり、
回想風に描かれた一人称の作品から
何人もの登場人物が入り乱れて織りなすドラマティックな作品まで
バラエティに富んだ1冊になっている。


収録作品からは、
経済的には恵まれながらも社会の最底辺の存在として不当に蔑まれ、
差別と偏見に晒されて、子どもの教育すらままならないといった
死刑執行人に対するすさまじいまでの差別を告発する意図とともに
死刑廃止を求める主張が読み取れる。


どこまでがサンソンの問題意識で
どこからかバルザックの考えなのかと
判断に迷いながら読み進めるが
それでも最後には作品そのものの訴える力に圧倒された。

とりわけ司法制度のありかたや死刑執行人の境遇などをとりあげた
前半の数章には社会派小説の趣きが。

若きアンリが父親の仕事を継いで
受刑者への拷問や処刑に臨む場面と併走して
アンリに想いを寄せながらも
死刑執行人との結婚を拒む恋人マーガレットとの確執を
バルザックらしいドラマティックな語り口調で描き出す
「アンリ・サンソンの手稿」や

劇画調のタッチで
イタリアの死刑執行人ジェルマノの受難を描いた「山の女王ビビアーナ」など
も読み応えもたっぷり。

この1冊で様々なサンソンが味わえるが、
その先はどうなるの?
もっと知りたい!読みたい!!と思わせる1冊でもあった。