かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『狂女たちの舞踏会』

 

狂女たちの舞踏会

狂女たちの舞踏会

 

 パリ13区にあるピティエ=サルペトリエール病院は、フランス元大統領ジャック・シラクをはじめ、多くの著名人が治療を受けていることでもしられる有名な総合病院だ。
ダイアナ妃やジョセフィン・ベーカーが息を引き取ったのもこの病院だった。

だが本書の舞台となる19世紀末、この病院は“不治の狂乱した女たち”を収容する精神病院として知られていた。

患者をつれてくるのは大抵が男性だ。
様々な職業の男たちが、娘や妻、母親を連れてくる。
夫も父も、誰も助けてくれるものもなく、もう誰からも気遣われることのない女たち。

患者たちの多くは性的虐待をうけ、心身共に傷ついている。
睡眠療法の公開講義を行う野心的なシャルコー医師は、ヒステリーの生理学的プロセスを明らかにすべく力を注ぐが、患者ひとりひとりの胸の内にはまるで関心が無い。

それでも病院にいる限りは安全だと考える古参の患者もいれば、いつかはここを出て“幸せ”になりたいと夢見る若い患者もいる。

そんなサルペトリエールに、新たに加わることになるのは19歳の娘ウジェニー。
父親が公証人というブルジョアの家に生まれ育った彼女は、求められるのは良いところに嫁にいくことだけだという自分の境遇を心の底から嫌がっていて、家を飛び出して自立することを夢見ていた。
けれどもとある理由から、サルペトリエールに連れてこられてしまったのだった。

自分は「正常」だと信じるウジェニーは、なんとかして病院を脱出しようと試みる。
そんな彼女が協力を求めたのは、意外な人物だった。


他方、ウジェニーが欠けた彼女の生家の食卓では、皆がそもそも彼女などいなかったかのように振る舞い、以前と全く変わりないかのようで、そのことがかえって不気味に思えもする。

ページをめくる毎になにが「狂気」で、どこが「境界線」なのかがどんどんわからなくなっていく。
そしてついにその境目が……。



原題は Le bal des folles
2019年に発表されたフランスの作家ヴィクトリア・マスのデビュー長篇作で、すでに映像化も決定しているのだそう。
なによりおどろいたのは、この作品が「高校生が選ぶルノードー賞」を受賞していること。
フランスの高校生、いろんな意味ですごい。