かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『小さな心の同好会』

 

 フィフティ・ピープルを皮切りに
読み応えのある韓国文学を次々に刊行している
亜紀書房のとなりの国のものがたりシリーズ第8弾。

『ダニー』や『クンの旅』など、高い評判は聞いていたけれど、
ユン・イヒョンの作品を読むのはこれが初めて。
2019年、韓国文壇最高峰「李箱文学賞」を受賞して、
これからと周囲の期待も一層高まる中、
まさにその受賞に関わる事柄が原因で
2020年の1月に作家活動の中断を宣言したとも聞いていたから、
少し尖った作風なのだろうかと、
どこか警戒し、読む前から身構える気持ちがなかったとはいえない。

けれども、いざ読み始めてみると
そんなことはきれいさっぱり頭から消え去った。

仕事の他に家事や育児に追われ、
社会から取り残されてしまうような焦りを感じる女たち
いつのまにか生じた溝にゆれるLGBTカップ
トランスジェンダーのきょうだいと正面から向き合えずにいた姉
職場内の性暴力
そうかと思うと突如ドラゴン、あるいはロボットとファンタジーやSF系も。

全部で11篇、
似たような設定のものはないのに、
読んでいるうちに登場人物たちの心の奥底をのぞき込み、
そうしたあれこれが、
社会の様々な問題と切り離しては考えられないことを
同時にそれは読者自身とも決して切り離せないことをも
読み手に突きつける点は共通している。

たとえば「スンヘとミオ」。
子どもが欲しい、家族が欲しいと思っているスンへと
家族は持てないと思っているミオ。
同性同士であることが、尚更問題を複雑にしている部分はあるにしろ、
どんなカップルにも起こりうるすれ違いや葛藤であることに
どこか安堵するような自分がいて、そのことを少し後ろめたく思う。

あるいは「ピクルス」。
性犯罪の報道をめぐる夫婦の会話の、
あまりにもリアルなやりとりが胸を衝き、
後輩の告発を受け止めかねる主人公の気持ちに、
かつての自分の姿を重ねておもわず言い訳したくなる。

二、三十代の女性たちの間に挟まって若返り、
正確になり、鋭利になれると思ってた。でも違った。
世の中のスピードが速すぎた。
風のように、草葉のように軽やかじゃないといけない時期に、
象みたいにずっしりと重みを増してきて、
歩くたびにずしん、ずしんと地面に鈍い音が響きわたった。
ある討論では若者がなんでそんなに怒っているのか、
どの点に怒っているのか、最後まで理解できなかった。
あんなに頑張って勉強して、ついていくぞと苦労したのに、
たまに具体的な説明もなく「人権感覚が低すぎて不愉快でした……」と
授業評価にコメントされることもあった。
         (「四十三」より)


大学で非常勤講師をしている四十三歳の女性の語りが
四十三をとうに過ぎた私の心にずしんと響く。

それでも、わたしは、考え続けるしかないのだ。
あなたのことも、わたしのことも、
あきらかに違うことも、同じであるようにみえることも。

ユン・イヒョンのいうとおり、
共にあることを夢見る人たちは、私たちが最後ではないはずだから。