かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『祖国』

 

 

 

 舞台はスペイン北部バスク地方の独立機運の高い閉鎖的な土地柄の小さな村。
バスク地方の分離独立を求める民族組織ETA(Euskadi Ta Askatasuna/エウスカディ・タ・アスカタスナ/バスク祖国と自由)が武装闘争の完全停止を宣言した2011年10月にはじまる物語は、現在と過去を行き来しながら語られていく。

語り手は2つの家族の9人。
中心となるのは、二人の母だ。
ビジョリとミレンは、二人で女子修道院に入ろうかと真剣に語り合うほど、夢見がちな少女だった頃からの親友だった。
ビジョリはチャトと、ミレンはホシアンと結ばれて、同じ年に、同じ村の教会での結婚式を挙げたのだった。
もっとも自ら起こした運送会社の経営を軌道にのせたチャトと結婚したビジョリの披露宴の方が豪華ではあったのだが。

ビジョリとチャトはやがて医者になる息子シャビエルと、美しい娘ネレアという二人のこどもに、ミレンとホシアンには、長女のアラチャ、長男のホシェマリ、末っ子のゴルカという3人の子どもにめぐまれる。

夫同士も親友で、長年家族ぐるみで親しく交流していたが、やがて長じたホシュマリがETAのテロ活動に身を投じたことで疎遠になり、チャトがテロの“標的”とされ、執拗に脅されたあげく殺されるにいたって、決定的に決裂する。

事件は、2つの家族の関係だけではなく、それぞれの家族の親子やきょうだいの間、さらには子世代のパートナーたちとの間にまでも、大きな亀裂を生じさせてしまうのだった。

物語は125の章に細かく区切られ、各章ごとに語り手が代わり、時系列に並んでもいない。
9人の語り手がそれぞれの視点から「祖国バスク」と自らの人生、そして自分と分かちがたい自らの家族と、もう一つの家族について断片的に語っていくのだが、そうした「かけら」を集め、積み上げていくことによって、様々な事柄が明らかになっていく。

こう書くとなにやら、小難しい小説のように思えるかもしれないが、内容の重さはさておいて、文体も展開も非常に読みやすい。

ぐいぐい読めるが、読み終えた今も、あれこれと考えずにはいられない。
そんな作品でもある。

かつてともに修道院に入ろうかと真剣に考えた二人の女性。
一人は夫がテロの犠牲になった時から信仰を捨てたといい、もう一人はかわらず教会に通ってはいるものの……。

読みながら何度も新訳聖書の一節を思い浮かべた。

あなたがたを迫害する者のために祝福を祈りなさい。祝福を祈るのであって、呪ってはなりません。喜ぶ人とともに喜び、泣く人と共に泣きなさい。互いに思いを一つにし、高ぶらず、身分の低い人々と交わりなさい。自分を賢い者とうぬぼれてはなりません。だれに対しても悪に悪を返さず、すべての人の前で善を行うように心がけなさい。できれば、せめてあなたがたはすべての人と平和に暮らしなさい。愛する人たち、自分で復讐せず、神の怒りにまかせなさい。   
   (新約聖書共同訳「ローマの信徒への手紙」より)



バスクの、そして世界の、さまざまな紛争に思いをはせる。