かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『私の唇は嘘をつく』

 

詐欺師のメグと彼女に復讐を誓うジャーナリストのキャット。
十年前に何があったのか、はっきりとは明かされないまま、物語は幕を開ける。

メグとキャット、それぞれのパートに分けて綴られる構成。
読者である私は、最初に口火を切ったキャットの方に、当然のごとく肩入れをする気満々で読み始める。
がしかし、十代半ばで車上生活を余儀なくされたメグの生い立ちにたじろぎ、そのままメグに引っ張られていくことに。


女は自立すべきだと信じていた美しい母親は、周囲の男たちから差し伸べられた救いの手を頑として受け付けなかった。
施しを受けるのではなく、真のパートナーを求めているというのだ。
あげく、男に騙されて持ち家を奪われ、娘共々路上に放り出され、傷心のうちに亡くなって……、メグもまた復讐を誓う相手がいるのだ。

一方のキャットの方はといえば、十年前、職業を隠して近づいた取材対象の男に薬を盛られ、レイプされてしまった原因を、相手がそういう男だと知りつつ、匿名で情報を提供してきたメグに転嫁し、長年メグの動向を探り続けてきたのだという。
いやキャット、あなたが恨むべき相手は別にいるのでは…と思いつつも、彼女の痛みが心に重くのしかかり、頁をめくるスピードが遅くなる。

キャットの母親はことある毎に“男のように考えなさい”といつも娘に言い聞かせる。
“男性のようにチャンスをつかみなさい”と。
過干渉の母親は娘に果たせなかった自分の夢を託し続けているようだ。


二組の母娘
復讐に燃える二人の女性
女を食い物にしても屁とも思わないような男たち。
出てくる男が誰も彼もこれでもかというぐらい酷いやつばかりなのは、二人の語り手が共に女だからというだけではあるまい。

現にこの本を読んでいる最中にも、国会議員の公設秘書が女性記者に性暴力を……というニュースが流れてきたし……。

そういった“リアル”を含めて、読んでいてしんどい部分がないとはいえない。
それでも頁をめくる手が止まらないのは、スリリングな展開と張り巡らされたあれやこれやの“真相”が知りたくてたまらないから。

メグの語りとキャットの語りが書き分けられているので、読者には二人の駆け引きも手に取るようにわかるのだが、状況は常にメグが一歩も二歩も先へ行く。

初っぱなで一転して以降、最後までメグに肩入れする気持ちは変わらなかったが、それこそが、詐欺師たるメグの手腕だったのかもしれない。

でもキャット、あなたはメグのまねごとなどせず、原稿を書いている方がいいとおもうよ。