『秋』につづく、四季四部作の2冊目だと聞いて、いそいそと手にした本。
クリスマスを共に過ごすために、ひとり暮らしの母の元に帰省することになっているアートは、この機会に母に紹介するはずだった恋人シャーロットと大喧嘩してしまう。
怒り狂ったシャーロットは、アートの仕事道具であるコンピュータを破壊し、部屋を出て行くだけでは気が収まらず、彼のTwitterを乗っ取って、でたらめなツイートを発信し始める。
ことそこに至ってもアートの一番の気がかりは、母の元に誰を連れて行けばいいのかということだった。
いやいや、それはちょっとどうなの?と思いつつも、街で偶然であった移民女性ラックスをアルバイトとして雇い、シャーロットとして、一緒に帰省して貰うという展開もさることながら、読者としてはより年齢が近い、不思議な「頭」と暮らす母親であるソフィアの精神状態の方が気になったり。
帰省した息子と偽物の恋人は、これは緊急事態だと、母とは正反対の性格ですっかり疎遠になっていた伯母アイリスを呼び寄せるが……。
時間も空間も行ったり来たり、夢も現実も思い出も空想も入り混じる展開に、初めのうちこそとまどうが、それでもそこはアリ・スミス、着地点を予想することなど無駄なことと割り切って、一度波に乗ってしまえば、現在過去未来が見事に混ぜ合わされた特別なクリスマスを味わえる。
イギリスのEU離脱問題や、核兵器問題、移民問題など、人々の営みの背景にある社会問題をしっかりと提示しながら、エルヴィス・プレスリーの歌や映画、バーバラヘップワースの彫刻など、芸術的要素でもたっぷりと楽しませてくれもする。
だがしかし巻末の訳者解説を読むまで、『秋』のあの人が登場していたとは全く気づかなかった。
これはきっと、四部作が全て翻訳された後、最初からじっくり読み返せば、また違った味が楽しめるに違いないという美味しい予感がする。