かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『カステラ』

 

「第1回日本翻訳大賞」の二次選考対象にあがっていたこの作品、
実を言うとこれまでノーマークだった。
そういえば韓国の現代文学というものをまだ読んだことがなかった気がして
慌てて手を伸ばしたのだが、これがもういろんな意味で予想以上にすごかった。

トップを飾るのは表題作の「カステラ」。
貧乏学生が中古の冷蔵庫を手に入れたものの
やたらとうるさいモーターの音に悩まされ修繕やら使い方やらをいろいろ試みる。
そうしてラストは冷蔵庫をあけるとカステラが一切れ?!
と、ストーリーをかいつまむと“だからなに?”という話なのだが、
これはがねえ。なにが、どこがと聞かれても困るが、妙に面白いのだ。

続く「ありがとう、さすがタヌキだね」にはちょっと困惑し、
「そうですか? キリンです」にいたっては、胸が詰まって泣きそうになる?!
ありえないでしょ?!なんでここにキリンなの?!
おまけにキリンでうるっとくるなんて!!

あげく地球は平らだと言ってみたり、
スワンボートが空をとんだり、
ヤクルトおばさんが………おおっ!韓国にもヤクルトおばさんがいるんだねえ!!

決して威勢のいい話ばかりではなく
むしろ登場人物たちは、
毎朝満員電車で悪戦苦闘していたり、
就職口がなかったり、
社会に上手く適応できなかったり、
貧しかったり、道に迷っていたり、自殺願望があったりと
かなり悲惨な状況なのに
この行間からあふれ出てくるパワーはいったいなんなのか?

読み始めた当初は“若さ”なのかとも思ったが、
読んでいくうちに感じる懐かしさの正体は
どうやら私と著者が同世代というところにもあるらしいので
年齢というわけでもなさそうだ。
とにもかくにもなんだかすごいものを読んでしまったなあ。という感じ。

好き嫌いは分かれそうだが何はともあれ誰だって、
読んだらひと言、言いたくなりそうな、一読の価値がある1冊だ。


<収録作品>
カステラ/ありがとう、さすがタヌキだね/そうですか? キリンです/
どうしよう、マンボウじゃん/あーんしてみて、ペリカンさん/
ヤクルトおばさん/コリアン・スタンダーズ/ダイオウイカの逆襲/
ヘッドロック/甲乙考試院 滞在記/朝の門


*おまけ*
これは本当に余計な話なんだけれど
巻末の著者プロフィールの写真はぜひ差し替えた方が良いと思う。
著者にはなにかこだわりがあるのかもしれないけれど
あまりに“近影すぎる”この写真に、
物語に登場する青年たちのイメージが………
読み終えてから見て良かった。(笑)

 

              (2015年03月16日 本が好き!投稿