かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『グルブ消息不明 (はじめて出逢う世界のおはなし―スペイン編)』

 

「スペイン文学」には明るくないが
これまで出会った作品には好印象をもっているものが多いので、
この本にも大いに期待を抱いていた。
がしかし、紹介文をよく見るとこれ、どうやら宇宙人もののよう。
何が苦手と言ってSFの中でもとりわけ宇宙人ものほど苦手なものはない私。
これはご縁がなかったかも……と思っていたところに、
この本が書店横断フェア“はじめての海外文学vol.2”に推薦されたことを知らされた。

(ああ、これはやっぱりまずは読んでみろ!という啓示かなにかかも?)
と思い、意を決して読み始めると
これがなんと、
なかなか几帳面らしい宇宙人の<私>を語り手とした、
時に分単位で刻まれる地球滞在記録なのだった!

<私>はグルブとともに、任務を帯びて地球にやってきた。
現地時間の九日0・01にバルセローナ近郊に到着し、
同日07・15に、部下であるグルブを現地住民と接触のために宇宙船から送り出す。

彼らは肉体を持たずに来たので、
グルブは目立たないように現地住民と同じ肉体をまとうことにし、
「マルタ・サンチェス」そっくりの外見になる。
なんでも「マルタ・サンチェス」は実在の人物で
スペインでは知らない人はいないというポップススターなのだそう。
作中にその写真も掲載されているのだが、なんともセクシーな美女なのだ!

いやいやこれでは滅茶苦茶目立ってしまうだろう!と心配するが
案の定、単身地上に降り立ったグルブは行方知れずになってしまうのだ。


しかたなく<私>は、翌日の07・00からグルプの捜索をはじめる。
その時<私>が選んだ外見は
17世紀のスペイン貴族リバーレス公伯爵の姿だったというのだから
続いておきる数々の混乱は起きるべくして起きたのだった?!


日を追って、時には分刻みで語られるあれこれは、
どんな姿でどこへいった。
誰と会った。何を食べた。
グルブからの連絡はまだない。
という繰り返しに過ぎないのだが、
これがなんだか妙に面白くてジワジワくる。

例えばある日
07・00にはこう書き記す。
浴室の体重計で体重を量ってみる。三キロ八百グラム。私が純粋知性体であることを考慮に入れるならば、とんでもない数字だ。これから毎朝、運動することにしよう。
その30分後には
通りに出る。六マイル走るつもりだ。明日は七マイル、明後日は八マイル、と徐々に増やしていこう。
と決心しているのに、その2分後には
パン屋の前を通る。松の実のケーキをひとつ買い、食べながら帰宅。走りたいなら別の誰かが走ればいい。
などと詳細に記されているのだ。

口から栄養を摂取する必要などみじんもないはずなのに、
よく食べ、とりわけチューロというスペイン風揚げ菓子が好物でキロ単位で食べまくる。
(初めのうちは美味しそうに思えるのだが、読んでいるうちに胸焼けが!)
おまけに年中アルコールを試してみては酔っ払って失態を演じる?!
なんとも人間くさいが、その失態はもちろん人間離れしているときていて
文字通り目も当てられない?!

風刺はあるだろう。
あるだろうけれど
そんなことは脇に置いても
バカだねえ~
本当に馬鹿馬鹿しいよねえ~
と思わず鼻で笑ってしまう可笑しさが癖になる。
一気に読むより少しずつ
ふふふっと読み進めるのがお薦め。
通して読めばもちろんストーリーがあり
いいのか?本当にそれでいいのか?!という
びっくりするような結末も待っている。

訪ねていっても彼らには会えないことは承知の上で
バルセローナに行ってみたくなった。

                 (2016年12月14日 本が好き!投稿