かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『厳重に監視された列車』

 

時は1945年、物語の舞台は、ナチス支配下チェコの小さな駅だ。
主人公は、交通職員見習のミロシュ。
恋人との初体験が上手くいかなかったことを苦にして、自殺未遂をして入院、ようやく回復して職場復帰したばかりという青年だ。
職場の先輩であるフビチカ操車員は、こともあろうに駅長事務室に電信係の女性を連れ込んで、前代未聞の破廉恥な行為におよび駅を有名にした人物で、出世を夢見る駅長さんは、駅で沢山の鳩を飼っていたりする。


そんな小さな駅を通過するのは、兵員の輸送列車や、飢えた子牛や牝牛が輸送される列車、前線から傷病兵をのせてきて故国へと向かう病院列車、大量の弾薬を積みこんだ貨物列車……。


どのページにも主人公の性の悩みや、卑猥なジョークや、馬鹿馬鹿しくて思わず苦笑してしまいそうなあれこれが詰まっているのに、それらの合間に戦争のもたらした悲惨な状況が見え隠れする。


深刻なことを愉快に語るのは、チェコ文学のお家芸
それはまた、著者フラバルの最も得意とするところ。
彼の作品にはいつも、勇敢な戦士も、優れた策士も出てこないが、彼らは美貌も資産も地位も名誉も持ち合わせずとも、いつも世の中を見据え、たえず何かを考えている。
“心ならず教養を身につけてしまった”主人公たちは、どんな悲惨な状況におかれていても、常にユーモアを忘れず、狂気にみちた世界から目をそらすことがない。


そうして迎える思いもかけぬラスト。
ああ、やっぱりフラバルだ。
もはやそう言うことしかできない。


ちなみにこの作品、1966年に映画化されているのだが、映画と小説とはだいぶ雰囲気が異なるようだ。
本書の解説によると、映像化にあたっては、映画と小説では表現方法が異なるべきとの原作者であるフラバルの意見が多く取り入れられた上での改変だったようなので、かつて映画をごらんになったという方の感想もぜひお聞きしたいところだ。

            (2013年02月21日 本が好き!投稿