かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『文學の実効 精神に奇跡をもたらす25の発明』

 

小説や詩を読んで心が癒された。そうした経験を持つ人は多く、「文学は心に効く」とはよく言われることである。しかし、それは本当なのか?文学作品が人間の心に作用するとき、我々の脳内では実際に何かしらの変化が起きているのだろうか?
こう問いかけ、
神経科学と文学。その2つの学位を持ち、スタンフォード大学シェイクスピアを教える著者が、文学が生み出した「人を救済する25の発明」と、その効能(実効)を解説する。
とうたうこの本のことは、発売前の編集者さんのTweetで知った。

細かい章立の目次(※詳細情報参照)も、写真で見た装丁も魅力的ではあったが、当然のことながらお値段もなかなかで、図書館にリクエストしようにもこの分厚さ、貸出期間中に読み切れるかどうか……と、思い悩んでいたところ、本が好き!編集部を通じて、指名献本のお話をいただいた。

これまた期間内に読み切ってレビューを書き上げられるだろうかと、心配する気持ちがなかったわけではないが、好奇心がまさって、即答でお請けすることにした。

そうして届いた本は、うっとりするほど美しく、ずしりと重い本だった。

こんなにすごい本を、レビューを書き上げるまでひと月ほども私一人で抱え込むのは、あまりに申し訳ないような気がして、どうせなら一章読み進める毎につぶやきをTwitterで公開してみようと思い立つ。

都度流れてくるTweetならともかく、それをまとめて読む人がいるかどうかはさておいて、せっかくだからとそのつぶやきをブログにもまとめてみもした。

はじめに~第5章までのつぶやき
第6章~第12章までのつぶやき
第13章から巻末までのつぶやき

それでもまだまだこの本の魅力のさわりほども伝えることができないので、少しでも興味を持たれた方がおられたら、出版社が公開しているはじめにをぜひ読んでみて欲しい。

そして、なにか引っかかるものを感じたら、書店でも図書館でもまずは手に取って、序章まで読み進めて欲しい。

これで、あなたの運命は決まりだ!
え?まだ、決心がつかない?
そんなあなたには、第16章をお薦めする。

これでどうだ!

と、熱くなったところで、ここからはちょっとクールダウンして、この本を読んで考えたことなどを。

    ******

たとえば
“AはBを愛している”を元に考えてみる。
それを
“私はBを愛している”
“私はAに愛されている”
と、主人公や語り手を置き換えてみるとか
“AはBを愛しているらしい”
“AはBを愛していた”
“AはBを愛するだろう”
などと、時制を変えたり、推測してみたりしてみる。
あるいは
“AはBを愛しているがBはAを愛していない”とか、
“AはBを愛しているがかつてはCを愛していた”などと
様々な情報が付け加えられていく
物語というものは、幾度となくそういう風に語りなされてきた。
けれども、その語りなおしが、
読み手である私自身にどのような影響を与えているのかということについては
じっくり考えてみたことがなかった。

とはいえ、全く心当たりがなかったというわけではない。
私はこれまで物語を読むことで
励まされたり、自分の心と対話したり
穏やかな気持ちになったりしてきたわけで
その都度、自分の心の状態によって本を選んできたという自覚もある。

そうではあるけれど、そうしたことが
読み手の脳への作用として解明されていくことにはやはり驚く。

たとえて言うなら、食べ合わせとか、薬草の効能とか
言い伝えられてきたことを科学的に裏付けるのとちょっと似ているかもしれない。


作家はそういうことを考えながら書くものなのだろうか。
確かにこうした“設計図”を生み出した人たちの中には
あれこれ考え抜いた末にそういう書き方で得られるはずの効能に
たどり着いた人もいるだろう。

この本を読んでいると、
紹介されている作品がどれもこれも魅力的に思えて、
片っ端から読んでみたくなる。
それはやはり、著者が、
文学の効能を存分に生かせる設計図を元に執筆したからに他ならないはずで、
この本の面白さは、著者の描いた設計図の有効性を証明しているともいえる。

実際に創作を手がける人たちが
この本で紹介されている様々な設計図を取り入れて
自分の作品を作り上げることができるものかどうか、
その辺りも気になるところ。

読者の側からすると自分の求める作品がどんなものか、
より把握しやすくなるし
読んでいる本のしくみについてもわかりやすくなるはず。

こういう刺激を得たければ、
古典なら、現代文学なら、映画なら、と具体的なアドバイスがある点も面白い。

自分の読書観を変えるほどの衝撃を受ける本とは、そうそう出会えるものではない。
それなりに長くなった私の読書人生の中でも、指折り数えて片手で足りるほど。
けれどもこの本はきっと、私の今後の読書人生を大きく変えることになるだろう、
そんな予感がする。