かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『不安の書』

 

ポルトガルを代表する詩人フェルナンド・ペソアは、リスボンの貿易会社ではたらきながら、詩を書き留めて、英語とポルトガル語で数冊の詩集を出しはしたが、生前は、文壇にごく少数の理解者を得ていた他はほとんど無名に近かった。


47歳でその生涯を終えた後、彼の良き理解者であった友人たちがその膨大な遺稿を整理して世に送り出したことで、広く認められるようになり、20世紀前半の代表的な詩人のひとりと目され、1988年に発行されたポルトガル紙幣100エスクードには、詩人の肖像が印刷されるにいたったのだという。


この『不安の書』もやはり、詩人の死後、彼の友人たちの手によって、整理編纂されて世に送り出され、今では世界中に熱烈な愛読者をもつことになった。
決定稿が残されているわけではないので、散文の並べ方、判読不能の箇所の扱いなど、編集者によって少しずつ異なる本があるようだ。


リスボンのとあるレストランで、ペソアは簿記係補佐のベルナルド・ソアレスなる人物と知り合い、ソアレスの著作の出版に助力することになったのだとする「紹介者フェルナンド・ペソアの序」から始まるこの本は、ベルナルド・ソアレスという人物が抱く、自己の存在への不安、生の倦怠、夢と現実の交錯といったものを600ページ以上にわたって断片的に語り続ける。


とはいえ、それらは一つの物語を形成しているというわけではなく、460の散文の集合体であるので、どこから読んでもよく、冒頭から一気に読み進めるというよりは、折々に思いついて開くといった読み方の方がふさわしい気もする1冊だ。


この本はポルトガル語からの直訳にして、「完訳」という画期的な1冊で、ボリュームももちろんお値段もかなりのもの。
先に紹介した抜粋 『不穏の書、断章』と比べると、日本語としては少し読みづらい感はあるが、それでも一文、一文を味わう価値はある1冊だといえるだろう。

              (2013年04月12日 本が好き!投稿