かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『路上の陽光』

路上の陽光 作者:ラシャムジャ 書肆侃侃房 Amazon 先頃読んだアンソロジー『絶縁』に収録されていた書き下ろし作品「穴の中には雪蓮花が咲いている」が素晴らしかったので、読みたい本のリストの順番を繰り上げて手に取った本書は、チベット人作家ラシャムジ…

『明るい夜』

明るい夜 (ものがたりはやさし) 作者:チェ・ウニョン 亜紀書房 Amazon 心というものが取り外しのできる体内の臓器だったなら、胸の中に手を入れて取り出し、温かいお湯で洗ってあげたかった。そして隅々まですすいで水分をタオルで拭き取り、日当たりと風通…

『図書館』

『図書館』ゾラン・ジヴコヴィチ著/渦巻栗訳(書肆盛林堂) はじめてゾラン・ジヴコヴィチに出会ったのは、忘れもしない2011年に東京創元社が刊行した21世紀東欧SF・ファンタスチカ傑作集 『時間はだれも待ってくれない』でのことだった。ここから…

2023年2月の読書

2月の読書メーター読んだ本の数:14読んだページ数:4692ナイス数:346辮髪のシャーロック・ホームズ 神探福邇の事件簿の感想「この小説は香港人である私からシャーロック・ホームズへの恋文であると同時に、シャーロキアンである私から香港へのラブレターで…

『辮髪のシャーロック・ホームズ 神探福邇の事件簿』

辮髪のシャーロック・ホームズ 神探福邇の事件簿 (文春e-book) 作者:莫理斯(トレヴァーモリス) 文藝春秋 Amazon この小説は香港人である私からシャーロック・ホームズへの恋文であると同時に、シャーロキアンである私から香港へのラブレターでもあります。著…

『華語文学の新しい風 (サイノフォン)』

華語文学の新しい風 (サイノフォン) 白水社 Amazon “サイノフォン”という聞き慣れない言葉と、劉慈欣の名前に惹かれて手にした本。なんでも華語文学の新たな流れを紹介する白水社の新シリーズの第1巻なのだそう。 サイノフォン(華語語系文学/Sinophone Li…

『女たちの沈黙』

女たちの沈黙 作者:パット バーカー 早川書房 Amazon 10年にわたったトロイア戦争の最後の年。トロイアの近隣都市リュルネソスが、ギリシア連合軍によって滅ぼされた。目の前で夫や弟たちや同胞を殺されたリュルネソスの王妃ブリセイスは、囚われて奴隷と…

『イリアス』

ホメロス イリアス 上 (岩波文庫) 作者:松平 千秋 岩波書店 Amazon ホメロス イリアス 下 (岩波文庫) 作者:ホメロス 岩波書店 Amazon そもそも二人を争わしめたのは、いかなる神であったのか。いきなり、アカイア軍の総帥アガメムノンと勇将アキレウスの激し…

『青木きららのちょっとした冒険』

青木きららのちょっとした冒険 作者:藤野可織 講談社 Amazon 親子以上に年の離れた読友Kちゃんの、“とてもよかったがどう良かったのか言い表すのが難しいので、是非読んでみて感想を聞かせて欲しい”という言葉に促されて読んでみた。名前だけは知っていたが…

『水 本の小説』

水 本の小説 作者:北村 薫 新潮社 Amazon 最初にお断りしておくが、私は決して北村薫の良い読者ではない。忘れもしない2015年。作家が 『太宰治の辞書』というタイトルの本を出すと聞き、太宰ファンとしては読み逃せないと思いつつも、これがシリーズ物…

『ホメーロスのイーリアス物語』

ホメーロスのイーリアス物語 作者:バーバラ・レオニ ピカード 岩波書店 Amazon ホメーロスの二大叙情詩『イーリアス』と『オデュッセイア』が、ギリシアとトロイア(イーリアス)との間の長い戦争にまつわる物語であることや、『イーリアス』がアキレウスを…

『平凡すぎる犠牲者』

平凡すぎる犠牲者 (創元推理文庫) 作者:レイフ・GW・ペーション 東京創元社 Amazon それは確かに誰から見てもありふれた事件のように思われた。元々知り合いだったアル中(最近では“社会的に孤立している”とかいうらしい)の二人が、一緒にちょっと食事をし…

『見習い警官殺し』

見習い警官殺し 上 〈ベックストレーム警部シリーズ〉 (創元推理文庫) 作者:レイフ・GW・ペーション 東京創元社 Amazon 見習い警官殺し 下 (創元推理文庫) 作者:レイフ・GW・ペーション 東京創元社 Amazon 以前読んだ同じ作者による『許されざる者』がとて…

『瞬間』

瞬間 作者:ヴィスワヴァ・シンボルスカ 未知谷 Amazon ポーランドの詩人ヴィスワヴァ・シンボルスカ(1923~2012)が2002年にまとめた詩集の全訳。1996年にノーベル文学賞を受賞した後、初めて刊行された詩集でもある。翻訳は『終わりと始ま…

『終わりと始まり』

終わりと始まり 作者:ヴィスワヴァ・シンボルスカ 未知谷 Amazon 詩を読むのは好きだ。気に入った詩に出会うと選び抜かれた言葉とリズムを声に出して読みたくなる。だから、詩集を読むときはできるだけ一人になって、静かな部屋で読むのがいい。詩は書かれた…

『許されざる者』

許されざる者 (創元推理文庫) 作者:レイフ・GW・ペーション 東京創元社 Amazon 国家犯罪捜査局元長官のラーシュ・マッティン・ヨハンソンは、好物のホットドッグを手にしたまま脳塞栓で倒れ、一命はとりとめたものの右半身に麻痺が残ってしまう。激しい頭痛…

『グッバイ・クリストファー・ロビン:『クマのプーさん』の知られざる真実』

グッバイ・クリストファー・ロビン:『クマのプーさん』の知られざる真実 作者:アン・スウェイト 国書刊行会 Amazon 著者のアン・スウェイトはイギリスの著名な伝記作家で、東京女子大学で教鞭をとったこともあるのだそう。中でも「A.A. Milne: His Life」(…

2023年1月の読書

1月の読書メーター読んだ本の数:13読んだページ数:4545ナイス数:359脂肪の塊/ロンドリ姉妹~モーパッサン傑作選~ (光文社古典新訳文庫)の感想光文社古典新訳のこの本は、モーパッサンの多面的な文業やその魅力を紹介することをめざして編んだという中・…

『脂肪の塊/ロンドリ姉妹~モーパッサン傑作選』

脂肪の塊/ロンドリ姉妹~モーパッサン傑作選~ (光文社古典新訳文庫) 作者:モーパッサン 光文社 Amazon 光文社古典新訳のこの本は、モーパッサンの多面的な文業やその魅力を紹介することをめざして編んだという中・短篇アンソロジー(全三巻)の第一弾。こ…

『疑惑の入会者: ロンドン謎解き結婚相談所』

疑惑の入会者 ロンドン謎解き結婚相談所 (創元推理文庫) 作者:アリスン・モントクレア 東京創元社 Amazon 元腕利き英国諜報部員で頭脳明晰なアイリスと、鋭い観察眼と貴族の人脈を持つ最愛の夫を戦争で亡くしたグウェン。まだまだ戦争の爪痕が色濃く残るロン…

『たけこのぞう』

たけこのぞう 3冊目の短編集『陽だまりの果て』で、第50回泉鏡花文学賞を受賞した大濱普美子さんのデビュー短編集。『陽だまりの果て』をKindleサンプルで試し読みしたところ、とても良い感じだったので、どうせなら初期の作品から追ってみようと読んでみた…

『絶縁』

絶縁 作者:村田沙耶香,アルフィアン・サアット,ハオ・ジンファン,ウィワット・ルートウィワットウォンサー,韓麗珠,ラシャムジャ,グエン・ゴック・トゥ,連明偉,チョン・セラン 小学館 Amazon アジア9都市9名の若い世代の作家が、「絶縁」をテーマに書いた短…

『思い出のスケッチブック』

思い出のスケッチブック:『クマのプーさん』挿絵画家が描くヴィクトリア朝ロンドン 作者:E・H・シェパード 国書刊行会 Amazon もしもプーさんにあの挿絵がなかったなら……。なんだかちょっと想像できない。だってほら、もしもA.A.ミルンの『クマのプーさん』…

『優しい地獄』

優しい地獄 作者:イリナ・グリゴレ 亜紀書房 Amazon 1984年、社会主義政権下のルーマニアに生まれた著者は、混乱したポスト社会主義の中で少女時代を過ごす。2006年に日本に留学。一旦帰国した後、2009年に国費留学生として再来日。弘前大学大学院修士課程修…

『セルリアンブルー 海が見える家 下』

セルリアンブルー 海が見える家 下 (マグノリアブックス MB 46) 作者:T.J.クルーン オークラ出版 Amazon 魔法青少年担当省(ディコミー)に所属するケースワーカー、ライナス・ベイカーは、ある日突然、最上級幹部たちに呼び出され、最高機密レベル4の任務…

『セルリアンブルー 海が見える家 上』

セルリアンブルー 海が見える家 上 (マグノリアブックス MB 45) 作者:T.J.クルーン オークラ出版 Amazon タイトルや装丁から、人生に疲れた大人が癒やされるような、ファンタジーだと思いこんでいたから、主人公が40歳の男性だと知っても、さほど驚きはし…

『消えたソンタクホテルの支配人』

消えたソンタクホテルの支配人 (YA!STAND UP) 作者:チョン ミョンソプ 影書房 Amazon 1910年の韓国併合によって日本の植民地支配がはじまる3年前、1907年に実際に起きたある事件を元に創作された韓国のYA小説。舞台は漢城(ハンソン:現在のソウ…

『パラディーソ』

パラディーソ 作者:ホセ・レサマ=リマ 国書刊行会 Amazon 「ラテンアメリカ文学不滅の金字塔」「20世紀の奇書にして伝説的巨篇」「翻訳不可能と言われた幻のキューバ文学」そんな風に言われたら、手を伸ばさずにはいられない。と、手に取ったはいいが、不用…

『チャタレー夫人の恋人』

チャタレー夫人の恋人 (光文社古典新訳文庫) 作者:D・H・ロレンス 光文社 Amazon 上流階級の令夫人が領地の森番と契りを結び、道ならぬ恋へと突き進むこの小説を一文でまとめてしまうと、極めて陳腐な恋物語にしか思えない、だがしかし……と、訳者はまえが…

2022年12月の読書

12月の読書メーター読んだ本の数:21読んだページ数:5448ナイス数:366バーナデットをさがせ!の感想電子メールに手紙、請求書にFBI文書、精神科医との通信に、問合せへの回答書、さまざまな形式の文書で構成されているちょっと変わった物語は、タイトル通…